神戸の相続・遺産分割弁護士 シノディア法律事務所

遺産分割に期限はあるのか?

1.はじめに

 遺産分割をいつまでに行わなければならないといった期間制限はあるのでしょうか?民法上は、遺産分割をいつまでに行わなければならないといった期間制限はありません。もっとも、相続が発生してから長期間、遺産分割をせずに放置しておくことは、種々の理由から相当ではありません。以下では、相続開始後、遺産分割をせずに長期間が経過することにより生じるリスク・問題点について説明します。

 

2.証拠・資料の散逸の危険

 遺産分割の協議や調停・審判において、特別受益や寄与分の有無が争いになった場合には、特別受益の存在、寄与分の存在を主張する当事者において、その存在を裏付ける証拠・資料を収集・提出する必要があります。しかしながら、こうした証拠・資料は、時間の経過により散逸・紛失してしまうおそれがあります。

 また、遺産分割の話合いをする中で、相続開始前後に被相続人名義の預貯金口座から不自然な出金履歴の存在が明らかになることがあります。こうした場合には、誰が口座から出金をしたか(出金者の特定)、出金した預貯金の使途といった点を巡って当事者間で争いになることがあります。そして、相続開始から長期間が経過してしまうと、金融機関にも取引履歴が残っておらず、預貯金の取引に関する事実関係を明らかにする証拠が散逸してしまうおそれがあります。

 

3.時効・除斥期間

 前述のとおり、遺産分割の請求自体には、時効や除斥期間といった権利行使に関する法律上の期間制限は、存在しません。しかしながら、例えば、相続開始前に被相続人の預貯金口座から被相続人に無断で特定の相続人が預貯金を出金し、自己のために費消したという事例においては、出金・費消の時点において、被相続人が当該出金費消行為を行った相続人に対し、不法行為による損害賠償請求権を取得し、その後の相続発生により、共同相続人が法定相続分に従い、損害賠償請求権を分割取得するところ、この損害賠償請求権については、通常の債権と同様、消滅時効による権利行使の制限という問題が生じます。すなわち、不法行為による損害賠償請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年、不法行為時から20年の経過により、時効により消滅してしまうのです(民法724条1号、2号)。このように、遺産分割の請求自体には、権利行使期間がなくとも、遺産分割に付随する使途不明金問題については、消滅時効の問題が生じるので、注意が必要です。

 

4.具体的相続分による分割の利益消滅

 令和3年の民法改正(民法等の一部を改正する法律・令和3年法律第24号)により、相続開始の時から10年を経過した後にする遺産の分割については、後記①または②の場合を除き、特別受益及び寄与分に関する規定は適用されないものとされました(民法904条の3)。

①相続開始の時から10年を経過する前に、相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき。

②相続開始の時から始まる10年の期間の満了前6か月以内の間に、遺産の分割を請求することができないやむを得ない事由が相続人にあった場合において、その事由が消滅した時から6か月を経過する前に、当該相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき。

 

 すなわち、この改正の結果、相続開始から10年を経過すると、遺産分割において、特別受益・寄与分の規定が適用されなくなる結果、具体的相続分ではなく、法定相続分ないし指定相続分による分割が強制されることになるのです。この改正は、相続開始から10年の経過により具体的相続分による遺産分割を求める利益を消滅させることで、早期かつ円滑な遺産分割を促すことを目的とするものです。この改正規定は、令和5年4月1日から施行となり、施行日前に開始した相続についても適用があるとされているため、特に注意する必要があります(改正法附則3条前段。ただし、同条後段による猶予規定あり)。

 

5.相続登記の義務化

 これまでは、不動産を相続した場合であっても、相続登記の申請は任意でした。しかしながら、令和3年の不動産登記法の改正(民法等の一部を改正する法律・令和3年法律第24号)により、相続登記の申請が義務化されました。以下に改正法の規定を引用します。

 

不動産登記法76条の2

1 所有権の登記名義人について相続の開始があったときは、当該相続により所有権を取得した者は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から3年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない。遺贈(相続人に対する遺贈に限る。)により所有権を取得した者も、同様とする。
2 前項前段の規定による登記(民法第900条及び第901条の規定により算定した相続分に応じてされたものに限る。次条第四項において同じ。)がされた後に遺産の分割があったときは、当該遺産の分割によって当該相続分を超えて所有権を取得した者は、当該遺産の分割の日から3年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない。

 

上記の改正は、令和6年4月1日から施行されます。改正規定は、施行日前に開始した相続についても適用があるため、注意が必要です(改正法附則5条6項)。

 

6.相続税の申告期限との関係

 相続税の申告及び納税は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内に行わなければなりません(相続税法27条1項、33条)。これは、期限内に遺産分割が成立していないときであっても同様です。申告期限内に遺産分割が未了の場合には、各相続人は、法定相続分に従って財産を取得したものとして相続税の計算をし、申告及び納税をしなければなりません。そして、この場合には、小規模宅地の特例や配偶者の税額の軽減の特例などが適用されないというデメリットがあります。また、申告期限内に法定相続分で申告・納税をした後に、遺産分割が成立し、成立した遺産分割の結果に基づき計算した税額と申告した税額とが異なるときは、実際に分割した財産の額に基づいて、修正申告または更正の請求をしなければなりません。相続税の申告や、その修正申告、更生の請求については、いずれも高度の専門知識を要するため、その専門家である税理士に申告等を依頼することが多いと言えます。修正申告や更生の請求が必要になると、その分だけ税理士に支払う手数料も増加することになるため、出来る限り相続税の申告期限までに遺産分割を完了することが望ましいと言えます。

 

7 まとめ

 相続開始後、遺産分割を行うことなく、長期間放置することには、様々なリスクがあり、思わぬ不利益を被るおそれがあります。相続開始後、速やかに遺産分割の話合いを進めることは、円滑で公平な遺産分割にも資するものと言えます。当事者の対立が激しい場合には、弁護士を代理人に選任し、代理人を通じて協議を進めることで早期の解決につながることもあります。遺産分割の話合いが紛糾することが予想される場合には、早めに弁護士に相談されることをお勧めします。

 

以上

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