神戸の相続・遺産分割弁護士 シノディア法律事務所

遺産中に不動産がある場合の遺産分割協議の留意点

1.遺産中に不動産が含まれる場合

 被相続人の遺産の中に不動産がある場合、どのような点に注意しながら遺産分割の話合いを進めるべきでしょうか。以下では、遺産中に不動産が含まれる場合の遺産分割協議における留意点について説明します。

 

2.遺産分割の一般的な流れ

 遺産分割の協議は、①相続人の範囲の確定、②遺産の範囲の確定、③遺産の評価の確定、④特別受益・寄与分の有無・金額の確定、⑤遺産分割方法の確定、という①~⑤の順に従って、ひとつひとつ合意を積み重ねながら、話合いを進めることが重要です(家庭裁判所の遺産分割調停の実務では、これを「段階的進行モデル」と呼んでいます)。

 この①~⑤の順に従って、ひとつひとつ、当事者間で合意を積み重ねてゆくことで、適正かつ効率的に遺産分割の話合いを進めることができるからです。

 そして、遺産中に不動産が含まれる場合には、③の遺産の評価が問題になることがあります。不動産の現物分割や代償分割を希望する相続人がいる場合には、不動産の評価を定めなければ公平な遺産分割を実現することができませんが、その際、当事者間で不動産の評価について争いになる場合があるためです。

 

3.不動産の評価について

 遺産の評価額について、当事者間に争いがなく、評価額について合意が得られる場合には、合意した評価額に基づき遺産分割を進めることができます。

 しかしながら、遺産の評価額について、当事者間で争いがある場合には、評価額を定める必要があります。特に、不動産の評価は、公的な評価基準だけでも、国土交通省の土地鑑定委員会が示す地価公示価格、都道府県知事が公表する地価調査標準価格、地方税法に基づく固定資産税評価額、財産評価基本通達に基づく相続税評価額(路線価)があること、また、民間の不動産業者による査定額にも幅があることなどから、争いになりやすい論点です。以下では、不動産の評価が争いになった場合に、その評価額を公平かつ合理的に定めるためのポイントを示します。

(1)評価の時点(基準時)を定める

 遺産は、時間の経過によってその評価額が変動することがあります。そこで、遺産をいつの時点を基準として評価するか、すなわち遺産の評価の基準時をどの時点に求めるかが問題となります。遺産の評価の基準時については、かつては相続開始時とする考え方もありましたが、現在の実務は、遺産分割時で固まっていると言って良いと思います。
もっとも、特別受益や寄与分が問題となる場合には、相続開始時の評価額に基づき具体的相続分を計算することになるため、遺産分割時と相続開始時の2点間の評価が必要となります。

(2)評価のものさし(評価基準)を定める

 不動産の評価の基準時が定まった場合には、次は、評価のものさし(評価基準)について、当事者間で合意が可能かどうかを探って行くことになります。評価基準としては、公的基準のほか、民間の不動産業者による査定、不動産鑑定士による鑑定評価が考えられます。

ア 公的評価基準

 前述のとおり、不動産評価の公的基準としては、①地価公示価格、②地価調査標準価格、③固定資産税評価額、④相続税評価額(路線価)があります。これらの公的評価基準を用いるメリットとしては、公的機関が作成した評価であり、信頼性が高いことが挙げられます。他方で、問題となっている当該不動産の個別具体的な事情は、当然ながら公的評価には反映されていないため、事案によっては、実態と乖離した評価となる可能性も否定できません。

イ 不動産業者による査定

 当事者が依頼した業者の査定額をもって、評価額の基準とすることが考えられます。不動産業者の多くは、無料での査定書の作成に応じてくれます。もっとも、複数の当事者がそれぞれ自身に有利な査定書の査定額をもって不動産の評価とすべきであると主張するなどした場合には、合意形成が難しくなることもあります。

ウ 不動産鑑定士による鑑定評価額

 不動産鑑定士に鑑定評価を依頼し、その鑑定評価額を基準とする場合もあります。不動産鑑定士は、不動産鑑定評価の専門家であり、国家資格による高度の専門性が保証されています。そのため、不動産鑑定士による鑑定書は、不動産業者による査定書等と比較し、一般的には信頼性が高いと言えます。もっとも、不動産鑑定士に鑑定評価を依頼した場合、相応の費用がかかります(鑑定内容にもよりますが、一般的には、数十万円程度はかかると考えておいた方が良いです)。

エ まとめ

 以上のとおり、不動産の評価の基準には、種々のものがあります。各基準のメリット・デメリットを表に整理すると下記のとおりとなります。

 

メリット デメリット
公的評価基準 ・公的評価であり信頼性が高い ・個別具体的事情が評価に反映されにくい。
不動産業者による査定 ・無料で査定書を作成してもらえる。 ・信頼性に欠ける査定書も散見される。
不動産鑑定士による鑑定士 ・個別具体的な事情に応じた鑑定が可能。

・国家資格を有する専門家による評価であり、一般に信頼性が高い

・鑑定費用がかかる。

4.評価について当事者間の協議で合意ができない場合

 不動産の評価について、当事者間の直接の協議では合意ができない場合であっても、家庭裁判所に遺産分割調停を申立てることで、調停委員を介して、さらに評価についての協議を進めることができます。また、調停では、裁判所に対し、鑑定の申請をし、裁判所が選任した鑑定人(通常は不動産鑑定士が選任されます)が中立的な立場から当該不動産について鑑定評価を行うこともあります。鑑定が採用され、鑑定人による鑑定書が提出されると、その鑑定額を基準に話合いが進むこともあります。

5.まとめ

 不動産の評価については、遺産分割時の評価を基準時としつつ、公平妥当な評価基準を選択し、当事者間での合意形成を図ることが重要です。不動産の評価について、合意が出来ない場合には、遺産分割調停を申立てた上で、調停の中で、さらに評価についての協議を進めていくことが可能です。

以上

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