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被相続人からの特定の相続人に対する長期間に渡る仕送りが特別受益に当たるとされた事例

背 景

被相続人Aは,生前,前妻Bとの間に子Cを設けましたが,その後Bと離婚,Dと再婚し,Dとの間で子E,F,Gを設けました。Aは,再婚後も,成人したCに対し,毎月10~15万円を約10年間にわたって送金しており,その送金額の合計は約1750万円にものぼっていました。被相続人Aが亡くなり,相続が発生した後,DEFGとBとの間で遺産分割について協議を行いましたが,Bに対する生前贈与をどのように扱うかについてDEFGとBとの間で対立があり,協議はまとまりませんでした。

主 張

共同相続人中に、被相続人から、生計の資本として贈与を受けた者があるときは、その贈与を相続分の前渡し(特別受益)と見て,計算上その贈与を相続財産に持ち戻して相続分を計算し,特別受益としての贈与を受けた相続人については,その相続分から贈与額を控除することができます(民法903条)。

特別受益として認められる「生計の資本」としての贈与にあたるかどうかは,贈与金額,贈与の趣旨等から判断されますが,短期間で費消される金額の贈与は,それが結果的に長期間継続してなされ,合計額が多額になったとしても「生計の資本としての贈与」とは言いにくいとされています(『家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務』254頁)。

もっとも,東京家庭裁判所平成21年1月30日審判(家月62巻9号62頁)では,相続人である相手方が被相続人から約7年の間に毎月2万から25万円程度の送金を受けていた事案において,遺産総額や被相続人の収入状況を考慮し,1月10万円に満たない送金は親族間の扶養的金銭援助にとどまるとしつつ,1月10万円を超える送金は生計の資本としての贈与に当たるとして,申立人主張の送金額約954万円のうち628万円を特別受益として認めています。

Dさんたちのケースでは,遺産総額や,被相続人及び相続人の生活状況からみて,贈与の金額は,親族間の扶養義務を超えるものであり,生計の資本としての贈与(特別受益)に当たるとの主張をすることが考えられました。

解決策

そこで、DEFGから依頼を受け,弁護士は,家庭裁判所に遺産分割調停を申立て、その調停の中で、AからCに対する送金の履歴を提出し,Cへの生前贈与が特別受益に当たることを主張立証しました。

結 果

上記のとおりBの特別受益の存在を主張立証することで,調停でBを説得することができ,その結果、Bが遺産を相続しないという内容で遺産分割調停を成立させることができました。

この記事の執筆者
上原 隆志 シノディア法律事務所 上原 隆志
保有資格弁護士
専門分野遺産相続問題
経歴

学歴 慶應義塾大学法学部法律学科 甲南大学法科大学院

職歴 2015年 甲南大学法科大学院・准教授(財産法・親族法・相続法)

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