使途不明金につき、交渉により返還を受けた事例
背 景
被相続人は,多額の資産を有していましたが,認知症を発症したため,自宅を出て,他県在住の親族Aの手引きでAの自宅付近の介護施設に入所しました。施設入所後,被相続人の資産は,専らAが管理していました。被相続人が亡くなった後,相続人らが被相続人の預貯金を確認すると,相続が発生する前の約8年の間に,合計1億1000万円もの預金が被相続人名義の口座から出金・送金されていることがわかりました。
主 張
出金・送金された預貯について、Aは,一部は被相続人のために使用し,残りは被相続人からのAに対する贈与であると主張しました。そこで、相続人らは,親族Aとの交渉を弁護士に依頼しました。依頼を受けた弁護士は,Aに対し受任通知を送付し,出金・送金した預金の使途を明らかするよう求めました。ところが、Aが被相続人のために使用したとする預金の多くは、領収書などの裏付け資料がありませんでした。また,贈与については,介護資料等から判断して,当時,被相続人は認知症が相当進行していた状態であって,多額の金員を有効に贈与することができるだけの判断能力(意思能力)に欠けていることが推認できました。
そこで,弁護士は、Aによる預金の出金・送金は被相続人に無断でなされたものであるから、Aの行為は、不法行為を構成し、他の相続人は、Aに対する損害賠償請求権を有していると主張し、その根拠資料を示して、Aとの交渉にあたりました。
解決策
上記の交渉の結果、最終的にAが相続人らに2000万円を支払うとの内容で示談をすることができました。被相続人の生前に第三者が無断で預貯金を出金・送金した場合,相続人は,その第三者に対し,法定相続分に従い不法行為による損害賠償請求権(民法709条)ないし不当利得返還請求権(民法703条,704条)を取得します。このケースでは,訴訟提起をすることも検討しましたが,早期解決の観点から示談による解決を選択しました。
結 果
近年、預貯金の無断引き出しが問題となる事案が増加しています。相続人は、被相続人名義の預貯金の取引履歴を取得することができる場合があります。遺産分割において、使途不明金がある場合には,早めに弁護士にご相談されることをお勧めします。この記事の執筆者
上原 隆志
シノディア法律事務所
上原 隆志
保有資格弁護士
専門分野遺産相続問題
経歴
学歴 慶應義塾大学法学部法律学科 甲南大学法科大学院
職歴 2015年 甲南大学法科大学院・准教授(財産法・親族法・相続法)