共同相続人の遺産管理に不安がある方へ―相続に強い弁護士が解説する遺産保存のための遺産管理人の役割
相続が発生したとき、遺産分割が完了するまでの間、遺産は全ての相続人に共有される状態になります。この時期に、共同相続人の一部が遺産の収益である収益不動産の賃料を使い込んでしまうなど遺産を適切に管理できないという問題が発生することがあります。こうした状況を防ぐためには、審判前の保全処分として遺産管理人を選任し、遺産の保全を図ることが有効です。本記事では、遺産管理人の役割とその重要性について、相続に強い弁護士が解説します。
目次
遺産の不適切管理のリスクとは?―弁護士が指摘する遺産管理の落とし穴
被相続人が亡くなってから遺産分割が完了するまでの間、遺産は、相続人の共有状態にあるため、一部の相続人が遺産を単独で管理する場合、あるいは共同相続人間の対立が激しく協力しての管理ができない場合には、遺産が適切に管理されず、収益の使い込みを招き、遺産自体の価値を減少させるといったリスクがあります。
使い込みや不適切管理の発生しやすい状況
例えば、預貯金や有価証券であれば、被相続人が亡くなった時点で、金融機関に死亡の届け出をすることによって、共同相続人の一部が預貯金を引き出して使い込みをされるといった事態を避けることができます。しかし、遺産に収益物件がある場合には、一部の相続人による賃料収入等の使い込みや不適切管理が問題となり得ます。
使い込みや不適切管理が発覚した際のリスク
使い込みや不適切管理が発覚した場合、相続人間での信頼関係が崩れ、遺産分割協議自体がうまくいかないことになりますし、使い込まれた遺産の収益や棄損された遺産を回復するためには別途法的手続きが必要となり、時間と費用がかかることになります。
相続財産管理人の役割とは?―弁護士が提案する適切な財産管理の方法
遺産管理人は、遺産分割が完了するまでの間、相続財産を適切に管理し、保全するために家庭裁判所から選任される者です。
遺産管理人の基本的な役割
遺産管理人は、遺産を一元管理し、適切な手続きを行うことで、財産の保全を図ります。具体的には、預貯金の凍結手続、通帳や印鑑、実印の管理、不動産の維持管理、債権回収などが含まれます。これにより、遺産が不当に減少するリスクを防ぎ、相続人全員に平等に分配されることが可能となります。
遺産管理人を選任するメリット
相続人間の対立が激しく協力して遺産管理ができない場合や相続の一部を代表として管理を任せられない場合などには、遺産分割調停ないし審判とあわせて遺産管理人の選任を家庭裁判所に申立てることになります。前述のとおり、特に遺産の中に、アパートなどの収益物件が含まれる場合において、信頼関係のない複数の共同相続人間で、共有状態の物件を協力して管理することは困難です。そういった場合には、遺産管理人を選任すれば、同人に収益物件管理全般を委ねることができるので、相続人全員が安心して遺産分割を進めることができ、賃料収入等の使い込みや不適切管理による遺産の棄損を防ぐことができます。
遺産管理人による財産保全
遺産管理人は、家庭裁判所から選任されると、預貯金口座に関しては、金融機関に選任の通知を送付し、通帳や印鑑等を預かり管理することになるため、相続人が口座の預貯金を動かすことはできなくなります。収益物件については、遺産管理人が同物件の管理に必要な行為(賃貸物件の必要な修繕、敷金や賃料の収受、債務の返済など)を行いますので、一部の相続人が賃料等を収受しそれを使い込むことなどはできなくなります。
実際の事例から学ぶ―相続財産管理人が財産を守った成功ケース
ここでは、実際に遺産管理人が遺産を守り、円滑に遺産分割が行われた事例を紹介します。
複数の相続人間の対立が激しく収益物件の管理が困難であったケース
被相続人が母、長男と長女が相続人で、遺産は主として預貯金と父の代で建築されたアパートでした。母の生前に長女が母名義の預貯金から多額の出金していたことが判明したため、長男は長女を信頼できず、感情的な対立が激しいために、遺産分割協議は遅々として進みませんでした。しかし、その間も、アパートの賃料の受け取りやアパートローンの返済、修繕工事の実施とその費用の支払い等、収益物件の管理を種々行わなければならない状況でした。どちらかを代表者として単独で管理を行うか、二人が協力して管理を行うかを選択する必要がありましたが、両者の対立が激しいため、いずれを選択することもできず、アパートを管理できない状況が続きました。賃借人からの賃料が受け取れずローン返済は滞り、また賃借人からはアパートの共用部分などについての修繕を求められても対応できませんでした。これ以上放置すれば遺産の価値が棄損される状況でしたので、長男は困って弁護士に相談したところ、遺産分割調停の申立てとともに遺産管理人の選任申立てをすることを提案されました。
遺産管理人が選任された後、遺産管理人が賃料を収受し、ローン返済を再開することができました。アパートの修繕についても、適切な金額で工事を実施し、賃料から費用を支払うことができました。遺産管理人は、遺産分割調停が成立するまでアパートを適切に管理し、相続人らは遺産分割調停に集中でき、賃料収入も含めて相続人らが納得できる形で遺産分割調停を成立させることができました。
遺産の管理に不安がある方へ―相続に強い弁護士に相談して安心の相続手続きを
遺産に収益物件があり、遺産分割が成立するまでの間、相続人間で協力して適切に管理することが難しいという場合は多くあります。賃料収入はだれが受け取るのか、修繕をするのかしないのか、するとしてどの程度の修繕をするのか、修繕の費用はだれが払うのか など相続人間の話し合いで決めていかなければいけないことが多くあり、両者に信頼関係があり、協力関係が築けなければ、適切な管理は困難です。そうすると、賃借人に迷惑をかけるだけでなく、物件自体の価値を下げてしまう可能性があります。遺産の管理に不安がある方は、早めに専門家である弁護士に相談することをお勧めします。弁護士は、遺産管理に関する全ての手続きをサポートし、あなたとご家族が安心して遺産分割を進められるようにお手伝いします。初回相談は無料で行っている事務所も多く、まずは一度相談してみることが大切です。弁護士のサポートを受けて、確実な財産保全を実現し、トラブルのない相続手続きを進めましょう。