遺産分割の流れについて弁護士が解説
弁護士の上原です。
「遺産分割って、具体的にどんな手続きが必要なの?」
「遺産分割で揉めないためには、どうすればいいの?」
「弁護士に相談した方がいいの?」
このような疑問をお持ちのあなたに向けて、この記事では、遺産分割の流れを、遺言が有る場合と無い場合に分けて詳しく解説していきます。
遺産分割とは、被相続人(亡くなった方)の財産を、相続人で分ける手続きです。遺産分割の流れは、大きく分けて以下のようになります。
- 相続人の確定:誰が相続人になるのかを確定します。
- 遺産の調査:被相続人がどのような財産を所有していたのかを調査します。
- 遺産分割協議:相続人全員で、遺産をどのように分けるのか話し合います。
- 遺産分割協議書の作成:遺産分割協議の内容をまとめた書面を作成します。
- 相続手続き:遺産分割協議書に基づいて、預貯金の解約や不動産の名義変更などを行います。
これらの手続きは、それぞれ複雑で、専門的な知識が必要となる場合もあります。
遺産分割の手続きを詳しく解説
- 相続人の確定
相続人は、民法で定められた種類と範囲に従って決まります。民法で定められた相続人のことを法定相続人と言います。法定相続人には、配偶者相続人と血族相続人とがあります。血族相続人には、順位があり、先順位の血族相続人がいない場合にはじめて後順位の血族相続人が相続人となります。第1順位が子、第2順位が直系尊属(親等)、第3順位が兄弟姉妹です。他方、配偶者は常に相続人となります。
また、被相続人の遺言による相続分の指定がない場合は、民法が相続人の種類に従って定める相続分が適用されます。例えば、被相続人に配偶者と子が2人いる場合、配偶者の法定相続分は2分の1、子の法定相続分はそれぞれ4分の1となります。
相続人を確定するためには、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本や、相続人全員の戸籍謄本などを収集する必要があります。
この戸籍謄本の収集ですが、相続人が遠方に住んでいたり、疎遠になっていたりする場合には、戸籍謄本を集めるだけでも一苦労です。また、被相続人が養子縁組をしていたり、認知した子がいたりする場合は、さらに戸籍の収集と解読作業は複雑なものとなります。
- 遺産の調査
遺産には、預貯金、不動産、株式、自動車など、様々なものがあります。遺産を調査するためには、被相続人の通帳や、不動産の権利証、被相続人が生前作成した契約書などを確認する必要があります。
被相続人が生前にどのような財産を所有していたのかを漏れなく把握することは容易ではありません。例えば、被相続人が複数の銀行に口座を持っていたり、株式や投資信託などの金融資産を保有していたりする場合、それらをすべて把握するには、相当の時間と労力を要します。
また、被相続人に借金などの負債がある場合は、負債も相続の対象となるため、注意が必要です。一口に負債といっても、借入金や未払いの税金など、様々な種類があります。負債の種類や額などによっては、相続放棄も検討する必要があるため、負債の状況を正確に把握することが大切です。
- 遺産分割協議
遺産分割協議は、相続人全員で行います。遺産分割協議では、遺産をどのように分けるのか、誰がどの財産を取得するのかなどを話し合います。
遺産分割協議は、相続人全員が合意しなければ成立しません。しかし、協議では、相続人の間で意見が対立することがしばしばあります。
相続人同士の利害関係が一致しない場合、遺産分割協議は難航することが予想されます。特に、不動産など分割しにくい財産がある場合や、相続人の人数が多い場合は、意見がまとまりにくい傾向があります。
- 遺産分割協議書の作成
相続人全員が遺産分割の内容に合意し、遺産分割協議が成立したら、その内容をまとめた遺産分割協議書を作成します。遺産分割協議書は、相続手続きを行う際に必要となる重要な書類です。
遺産分割協議書には、相続人全員の署名と押印(金融機関などで相続手続を行う場合には、相続人の意思確認のために印鑑証明書の提出を求められるため、通常は遺産分割協議書にも実印を押すことが多いでしょう)が必要です。
遺産分割協議書の作成にあたっては、遺産の分割方法、各相続人が取得する財産、代償金の金額と支払い方法など、必要な事項を漏れなく記載する必要があります。また、後々のトラブルを避けるためにも、内容を明確に記載することが重要です。
- 相続手続き
遺産分割協議書に基づいて、預貯金の解約や不動産の名義変更などを行います。相続手続きは、遺産の内容に応じて、金融機関や法務局など、様々な機関で行う必要があります。
遺言がある場合
被相続人が遺言書を残している場合は、原則として遺言書の内容に従って遺産分割が行われます。遺言書には、大きく分けて以下の2種類があります。
- 自筆証書遺言:被相続人が自分で書いた遺言書
- 公正証書遺言:公証役場で作成する遺言書
遺言書がある場合でも、相続人全員が遺言書の内容に同意すれば、遺言書と異なる内容で遺産分割を行うことができます。
遺言書の種類
自筆証書遺言
自筆証書遺言は、被相続人が遺言の全文(ただし財産目録については一定の要件のもと自署不要)、日付、氏名を自書し、押印することで成立します。費用がかからず、手軽に作成できるというメリットがありますが、形式的な要件が厳格であるため、要件を満たしていない場合は無効となる可能性があります。
公正証書遺言
公正証書遺言は、公証人が、被相続人から遺言の内容を口頭で伝え聞くなどの方法によりその意思を確認し、証人2人以上の立会いのもとで作成する遺言書です。法律の専門家である公証人が作成するため形式的なミスがなく、原本が公証役場で長期間保管されるため偽造や変造のリスクも低いというメリットがあります。ただし、自筆証書遺言と比較すると、作成に費用がかかり、手続きもやや煩雑です。
遺言書の内容と遺産分割
遺言書には、遺産をどのように分けるのか、誰がどの財産を取得するのかなどが記載されています。遺言書の内容が法律に違反している場合は、無効となることがあります。また、遺言の内容が、相続人の遺留分を侵害している場合には、後日、遺留分を侵害された相続人との間で後日トラブルになることもあります。
遺留分とは、被相続人が有していた相続財産のうち、一定の割合を一定範囲の法定相続人に保障する仕組みです。例えば、被相続人の法定相続人が配偶者と子の2人である場合、各相続人には、遺留分として、遺産の4分の1を受け取ることのできる利益が保障されています。
遺言書の内容に問題がない場合は、遺言書に基づいて遺産分割が行われます。遺言書の内容に問題がある場合は、相続人同士で話し合って遺産分割を行う必要があります。
遺言がない場合
被相続人が遺言書を残していない場合は、相続人全員で遺産分割協議を行い、遺産をどのように分けるのかを決定します。先述のとおり、遺産分割協議は、相続人全員が合意しなければ成立しません。
相続人の間で意見が対立し、遺産分割協議がまとまらない場合は、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることができます。
相続財産調査
遺産分割協議を行うためには、まず、被相続人がどのような財産を所有していたのかを調査する必要があります。遺産には、預貯金、不動産、株式、自動車など、様々なものがあります。
相続財産調査は、被相続人の自宅にある資料を探したり、金融機関、役所などに問い合わせをしたりなどして行います。自分で調査をすることが難しい場合には、弁護士などの専門家に依頼することもできます。
遺産分割協議
相続調査が完了したら、相続人全員で遺産分割協議を行います。遺産分割協議では、遺産をどのように分けるのか、誰がどの財産を取得するのかなどを話し合います。
遺産分割協議は、相続人全員が合意しなければ成立しません。そのため、相続人の間で意見が対立し、いつまでたっても協議が進まないといったことがあります。
遺産分割調停
遺産分割協議がまとまらない場合は、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることができます。遺産分割調停では、調停委員が間に入り、相続人同士の話し合いを調整します。
調停委員は、中立的な立場で、相続人それぞれの意見を聞きながら、合意形成を目指します。
遺産分割審判
調停でも合意が得られない場合は、家庭裁判所が審判で遺産分割の内容を決定します。審判は、裁判官が行います。
審判の内容に不服がある場合は、高等裁判所に即時抗告をすることができます。
訴訟(裁判)
遺産分割調停や審判の中で、相続人の範囲や、遺言の効力・解釈、遺産分割協議書の効力、遺産の帰属といった遺産分割の前提となる事項が問題になり、話し合いでも解決ができない場合には、家庭裁判所での遺産分割調停・遺産分割審判ではなく、地方裁判所(ないし簡易裁判所)での訴訟による解決が必要となることがあります。訴訟では、裁判官が証拠に基づいて判断し、判決を下します。
まとめ
この記事では、遺産分割の流れについて、遺言の有無別に分けて解説しました。遺産分割は、相続人にとって複雑で、精神的な負担も大きい手続きです。
遺産分割をスムーズに進めるためには、専門家である弁護士に相談することをおすすめします。弁護士は、遺産分割に関する法律や手続きに精通しており、相続人の代理人として遺産分割協議に参加することもできます。
遺産分割でお困りの際は、お気軽に当事務所にご相談ください。